十八代目中村勘三郎襲名披露@嘉穂劇場

AND2006-09-04

落成昭和6年、今年で築75年という日本でも現存する最古級の芝居小屋、飯塚市嘉穂劇場。かつて筑豊炭田華やかなりし頃、この辺りには数十軒もの小屋があったという話だがヤマの衰退とともに他の劇場は次々と閉館。一つ残った嘉穂劇場伝統芸能中心から大衆演劇、歌謡ショー中心となり、そして一時はほぼストリップ小屋となり、ストリップもやめてからはほとんど開店休業状態。80年代以降の公演回数は年間30回程度。2002年にはなんとわずか16回。建物も老朽化し実は劇場もほぼ風前の灯火だったらしい。そして2003年の豪雨で完全に水没し、ついに命運尽きたかと思われたのが災い転じて福。飯塚の水害の象徴的存在としてクローズアップされ各方面から多額の義捐金、協賛金などを集め、江戸時代の歌舞伎小屋様式はそのままに以前より立派な建物となって翌年復活したのだ。まさに波乱万丈の歴史。

今回は勘三郎はもちろんだが「嘉穂劇場」を見るというのが個人的には最大のお目当て。もっとこじんまりとした小屋をイメージしていたが実際に前に立つと凄まじい威容。まさに「娯楽の殿堂」。これより古い劇場も全国にはいくつか残っているようだが、ここまで立派なのはそう無いんじゃないでしょうか。かつて数限りない人々が胸躍らせてくぐったと思われる木戸口を上がればもちろん土足厳禁。

席は全て桟敷席。二階から下を見下ろせば見事に埋まった一階席。これでお客がみんな和服だったりしたらそのまんま江戸時代だね。

そうは言ってもお世辞にも快適とは言えないスペースの桟敷席。身の丈六尺余りの私はなおさらのこと脚を折り曲げなければ座れないがこれはこれでよし。我が愛する甲子園球場同様、極力このままの姿で残っていて欲しいもんです。
それはそうと勘三郎。今回の演目は狂言を元にした「身替座禅」。恐妻家の男が座禅をすると奥方に嘘をつき、家来を身替りに座禅させて愛人の元に出かけるが実は奥方にバレてしまう。良いご機嫌の千鳥足で帰ってきた男は家来と奥方が入れ替わってることに気付かずに奥方の前でノロけまくり妻の逆鱗に触れると言う話。いやあ素晴らしいです勘三郎。愛人とのことを思い出しつつイヤらしい笑いを浮かべて花道をスキップで帰ってくるところはまさに絶品。さすがに「芸の肥し」を数々積んでいるだけのことはありますな。